近現代史の旅24回目です。前回で日露戦争の直後からアメリカは日本を
仮想敵国にして日米間の全面衝突へと準備に入ったと述べました。
第一次大戦後、日本は連合国の勝利に大きく貢献した功績により連合国
五大国の一国としてパリ講和会議に参加し、ヴェルサイユ条約によりドイツ
の山東省権益と、パラオやマーシャル諸島などの赤道以北の南洋諸島を委
任統治領として譲り受けるとともに、国際連盟の常任理事国となりました。
経済的には、当時すでに世界有数の工業国として近代工業が隆盛を誇って
いました。連合国から軍需品の注文をうけ、大景気に沸いていました。
アメリカ国内ではこのような黄色人種でありながら列強の一国になり、発
展を遂げる日本に対しての脅威論が猛威をふるい始めていきました。
ルーズベルト大統領は多くの点で日本人の優秀さを認めていた。彼は「日本
人は劣っているからではなく、優れているからこそ、排斥されねばならない」
という言葉まで残しています。彼の唱えた黄禍論の本当の意味が分かって
もらえたと思います。
アメリカのマスコミは「発達する日本の背後に中国の4億人のパワーと資源
が結集されれば白人世界は確実に窮地に陥る」という黄禍論を唱え、欧州
だけでなくカナダやオーストラリアまで排日論が広がっていきました。
アメリカのマスコミは「明日にでも日本軍が攻めてくるという」極端な
キャンペーンを連日繰り広げ、それが世界中に伝播して日本を孤立化させ
ていきました。
ルーズベルトの後の大統領はウイルソンです。彼は「民族自決」「植民地
主義反対」を唱え平和の旗を振って登場しました。しかしアメリカは過去
パナマを取って、ハワイを取って、フィリピンもとった紛れもない侵略国
家です。
アメリカという国は今も昔も国益のためなら恥ずかしげもなく平気で過去
を忘れて正義の人になれるのです。ウイルソン大統領は「戦争というもの
を永久になくすために戦争をするんだ」と言った人です。
この偽善者大統領に日本は嵌められてしまいました。彼は「各国が同盟を
作ることによって戦争が起こる、同盟なんてものを止めて、世界中が一つ
の原則に合意してお互いに守れば平和になる」というウイルソン主義を
提唱しました。
そして1920年に国際連盟を作るのです。彼は同盟に反対ですから当然
「日英同盟」にも反対です。つまりルーズベルト大統領からの日本を孤立
化させる戦略を継承していたのです。
イギリスは総理、外務、陸軍、海軍もみんな、日英同盟継続に賛成。しかし
アメリカは強固に反対します。ところがこれをあっさり廃棄してしまった
のは他ならない日本の代表だった幣原喜重郎です。
幣原喜重郎は日英同盟が日露戦争の時以上日本国にとって命綱であること
が分かっていない。日本政府には驚くほど危機感がなかった。アメリカに
とって日米決戦の最大の障害物は日英同盟です。
幣原喜重郎は自ら原案を書いて日英同盟を日英米仏の四か国条約にしてしま
います。しかしいざという時、誰も助けに来ないのですからなんの意味も
ありません事実その後何の役にも立たなかった。そしてこの協定が締結され
ると同時に日英同盟は失効してしまいます。
幣原はウイルソン主義である平和を信じて平和主義者ウイルソンの罠に
幣原は見事に嵌ってしまいました。
明治維新からすでに68年、日露戦争から16年がたっています。あの頃の
偉大な人達はすでにいない。幣原喜重郎のような文民出身が外交を仕切る
ようになっていました。
彼は常に首席卒業で帝国大学法科を卒業しています。お勉強は出来ても相手
の意図が見抜けない、外国との駆け引きができない、その割には傲慢で自信
たっぷりです。今の官僚の原型です。
彼はウイルソンの建前的な平和論を信じ、アメリカの善意を完全に信頼して
いました。しかしアメリカは国益中心で平和はその武器の一つに過ぎない。
特に中国問題では幣原はワシントン会議の精神を誠実に守って、全てを
法の支配下に話し合いで解決しようとしました。
しかしアメリカはその後条約を守らない中国の方に加担します。満洲事変
が起こったときも、事変解決の為にイギリス人が書いたリットン報告書は
非常に公平で「これは日本の侵略というものでない」といっています。
中国での日本権益の拡大を恐れたアメリカはそれを潰してしまいました。
私が言いたいのは彼のように相手の手の内を読む事ができず、「お互いに
条約を守って、理解し合えば、平和にうまくやっていける」と信じた彼の
無能が日本を窮地に追い込んでいったのです。
現代の日本も幣原のような元秀才官僚の無能ぶりが日本を弱体化させていま
す。なぜお勉強のできる人ほど 駆け引きができないのか不思議です。
政治家も官僚も優先順位は国益です。そのためには道徳的に批判されても
二枚舌は必要です。ところがいまや自分を守るためにだけ二枚舌を使って
います。
現在の外務省に望むことは変幻自在の生きた外交をすることです。アメリカ
に常に手の内を読まれ、いいように動かされている政治家にはうんざりです。
日本の指導者たちは今も昔も変わらない、世界の現実が見えない、彼らの
二枚舌を信じてしまいます。そしてエリート言論人たちは、悪いのは日本で
あると自己反省や内部改革論を唱えます。それは相手を利するだけだという
ことが未だにわかっていない。
(次回は、日本はアメリカの戦略にはまり孤立化し、支那事変の泥沼に
入っていった日本の悲劇を書いてみます)
