国の経済問題を語るのは非常に難しいことです。なぜなら多くの人は
個人の財布と国の財布を同じ感覚で捉えているからです。
経済学者、財務省、政治家、経済評論家のほとんど誰もが財政赤字
について語り、そしてほとんど誰もが原則的にそれに反対しています。
ところが誰一人として自分自身、口にしていることが分かっていません。
「国の財政負債1千兆円」という巨額の数字の前では誰もが思考停止に
なってしまい、国の破綻を想像してしまいます。
国の借金1千兆円という数字は単に長面上に積み重なった意味の無い
数字だといったら反論が5万と来そうです。そこで理解していただく
ためにまず金融政策の要である中央銀行(日本銀行)の役割について
考えてみましょう。
イギリスの中央銀行は1844年に設立され、日本銀行も1882年(明治
15年)に設立されました。つまり維新政府はそれまで租税を組織的に
徴収する力もなく無税国家だったのです。
だから明治政府は巨額の財政支出のほとんどを直接紙幣を発行して
まかなっていたのです。
明治政府は政府紙幣を発行してインフラストラクチャー整備や諸産業へ
の融資で企業を育て、戊辰戦役の戦費や日清戦争の準備金などで巨額の
紙幣を剃りました。そのうえ廃藩置県にともなう旧藩の藩札等の償還
なども、巨額の通貨を発行したにもかかわらず、当時はインフレにも
ならず、むしろ物価は安定していました。
イギリスやフランス、ドイツをお手本にしていた明治政府は明治15年に
中央銀行を作り通貨の発行業務を移管しましたが中央銀行はまだ通貨量
を調整する権限を持っていません、つまり政府主導で中央銀行の独立性
は担保されていませんでした。
だからいくらでもお金を印刷できたために明治政府は超スピードで西洋
に追いつき、近代化を成し遂げることができたのではないかと、私は
思っています。少し極論です。
現在中央銀行のない国はありません。中央銀行は通貨量を調整する権限
を持つために各国においては大きな影響力をもっています。
しかしどこの国においても政府は完全雇用と好況を求めているために
中央銀行に対して金融緩和をもとめることになりますが、中央銀行に
政府の要求を断る権限がなければインフレーションになる可能性がある
と誰もが考えました。
そこで先進国では「通貨の番人」としての権限を持たせるために中央
銀行を政府から独立させたのです。つまり現代においては中央銀行の
独立性が低かったり、インフレ抑制に積極的でなかったりする国の通貨
は信認されにくいという考えになりました。
ところがサブプライムローン問題やリーマンショックで世界大恐慌の
入口に立った欧米は、中央銀行の独立性など構っていられなくなり、
政府の意向でお札を大量に刷り,大恐慌をかろうじてふせぎました。
しかし不思議なことに欧米先進国ではこれほど大量にお金を刷ったにも
かかわらずインフレがおこりませんでした。
ひるがえって日本を見た場合、中央銀行(日本銀行)の独立性が多大の
弊害をもたらしています。EUが2倍強、アメリカが3倍の通貨を刷った
にもかかわらずインフレを恐れた日本は1.5倍しか発行しませんでした。
日本は円高になりデフレスパイラルを加速させたのは当然の結果です。
そこで今日の本題に入ります。紙幣を直接発行していた維新政府は
財源を誰かに借金するという概念そのものを特に必要としなかった。
ところが明治政府は先進ヨーロッパを見習って、直接紙幣を発行する
システムを廃止し、中央銀行が間接的に紙幣を発行するシステムに
変更しました。
明治政府は税金を徴収する組織を急速に整えましたが、それでも財源が
たりません。通貨発行で直接まかなう事ができなくなった政府は不足
する資金は国債発行(借金)に頼る他ありませんでした。
その借金(国債)を銀行、保険会社、個人などの市中から調達する場合,
市中における通貨流通量が変わらないために、インフレが起こりにくく
なるというのが先進国の考えです。
今までの説明で少しは国の借金の正体が見えたのではないかと思います。
つまり通貨を直接発行出来た維新政府がもし今日まで続いて入れば借金
はゼロです。その代わり超インフレになっていたかもしれません。
国の自国通貨建て国債発行(借金)は国民の資産です。政府の1千兆円
の借りている相手は日本国民です。国債発行が円建である限り何も恐れる
事はありません。中央銀行(日本銀行)を設置した時から国の借金(国債)
が増えて行くのは当たり前の運命です。現に欧米先進国でも借金が増え
続けています。
日本は帳面上の借金が増え続けると同時に本当に価値ある対外純資産も
増え続けています。対外純資産は国が直接使えるわけではありませんが、
日本企業の力は日本国の余裕です。そして1991年以来20年連続で世界
最大の債権国になっています。
その上個人の金融資産が日本銀行作成の資金循環統計によれば1500兆円
という巨額です。つまり日本は「世界最大の大金持ちの国」なのです。
あ~それなのにそれなのに、愚かで勉強しないマスコミは今日も「国の
借金は世界中で最悪の水準にある。普通の家庭なら、破産寸前である」と
書いています。
(次回もこの話を続けるつもりです)
