伊藤元重氏(東京大・大学院教授)のTPP推進論の論説(産経新聞
15日)を読んでそのあまりの底の浅さに憤りを禁じえません。
伊藤氏は「反対派の人たちはTPPを進めるよりは日中韓の経済連携
協定に力を入れるべきだと主張していた。日本の貿易は、米国よりも
中国や韓国との方が大きいし、今後の成長という面でも中国の方が
魅力的であるからと反対者は言っている」と言っています
また伊藤氏は「日中韓を優先せよと主張したとすれば、それは巧みな
自由化反対論者である」とも言っています。伊藤殿、あなたの言って
いることは論点のすり替えです。
伊藤氏は「日本がTPPに参加の意欲を見せたことで、中国や韓国が経済
連携協定へより意欲的な姿勢を見せている。EUも目が変わりはじめた
と政府関係者が言っている」と述べ、TPPの中身の利害の論点を避けて、
TPPを賛成することによって日中韓のFTAも進展が早まると読み手を
巧みに誘導しています。
彼はTPPの持っている多くの問題点を議論の対象から避けて、「TPP
の交渉で米国が無茶な要求をしてくるようなら、日中韓を先に進める
と脅しをかけるだけのしたたかな外交を日本ができるかどうかは別に
して、アジア太平洋全体の動きを見据えた戦略的な思考が求められる」
とこの論の最後をこのように結んでいます。
したたかな外交を日本がしなければならないとは書かずに「したたかな
外交ができるかどうかは別にして」と批判の矛先を巧みに避けています。
つまり「しなければならない」と書いてしまうと日本の外交がそのよう
なしたたかな外交が出来るはずがないと反論されるのを避けるためです。
「アジア太平洋全体の動きを見据えた戦略的な思考が求められる」と
最後を結んでいますが、現実主義者のビジネスマンにとってこのような
学者の言葉は苛つくだけでなんの役にもたちません。
伊藤殿、TPP反対論者の識者のいったい誰が「TPPを進めるよりは
日中韓の経済連携協定に力を入れるべき」と言っているのですか?
TPP反対論者の中でこのような愚かな事を主張している識者を私は
知りません。おそらく貿易の知らないごく一部人だと思います。
自らの推進論を正当化するためにごく一部の意見を対局に持ってきて
主張するなど恥ずかしいことです。
もし韓国とFTAが成立しても日本のメリットなど皆無です。現在韓国
の対日赤字額は300億ドルの巨額です。伊藤殿その貿易の中身を知ら
ないのですか?
韓国は日本から何も買いたくないのに対日赤字が300億ドルもあるの
です。サムスン電子やLGの大手輸出企業は自社技術があまりにも貧弱
であるため日本から資材や部品、工作機械を購入しない限り、何も作る
ことが出来ないのです。
中国の場合も日本企業が大小合わせて2万社以上進出しています。進出
した日本企業はコアの部分や部品は日本で作って出荷しています。そし
て完成品を日本に出荷(輸出)しています。
海外の企業も近場の日本から技術力の高い部品を輸入しています。
それ故、日本にとってこの両国の貿易額がアメリカを上回るのです。
つまり中国からの輸入が飛躍的に伸びているのは、中国へ進出した日本
企業から送り出された商品です。農水産物も日本の商社が日本市場に
あてはまるように中国人を使って作らしているのです。
中国企業が独力で、日本に好まれる商品を開発して輸出しているのでは
なく、中国の輸入商品の全ては中国を利用している日本企業の手で送り
出されたものです。だから日中韓の経済連携協定などあまり意味をなさ
ないのです。
TPPに話を戻します。今回のTPP参加国とは、日本の重要輸出品目の
関税を取り払い、すでに自由貿易協定を結んでいます(米、砂糖は例外)
TPPに参加すればこれらの例外がなくなるだけで、たいしたメリットも
ありません。
米国、オーストラリア、ニュージーランドとは自由貿易協定を結んで
いないが、これらの国の非農産品関税はもともと低いから、経済的効果
は極めて低いです。
米国中心に見れば、電気電子機器の関税は1.7%乗用車の関税は2.5%
など関税を撤廃してもほとんど影響がありません。
ベトナム、フィリピン、マレーシア、シンガポール、インドネシア、タイ
ブルネイ、ペルー、チリ、とはすでにFTAを結び終わるか、結ぶことが
決まっています。
そして非農産品の先進国間の貿易自由化は、ガット、WTOの多角的交渉
を通じて、既に基本的に完結しています。
このような状況の中で「TPPに不参加なら世界の孤児になる(米倉経団連
会長)」など無知も甚だしい。
だから私はこの2ヵ月近くTPPの関税に特化して論じるのではなく、
TPPを利用して日本の富を狙っているアメリカの陰湿な利益集団の
危険性を繰り返し述べてきたのです。
アメリカが常に口にする「自由市場」「自由企業」「自由世界」などの
抵抗しがたい言葉の魔術で、グローバル化されることで豊かな国になる
などの幻想を持ってはいけないと言ってきたのです。
われわれ日本人は資本主義国家と民主主義国家を同じものだと長く
信じ込まされてきました。このような呪縛から解き放される必要に
迫られています。
今日の変貌を遂げた資本主義、捻じ曲げられた民主主義の新しい世界は、
昔の暗黒時代のように、今よりも不平等や不安定が増し、貧困が襲い、
中産階級が没落し、格差社会が広がってきています。
世界が足を踏みいれつつある暗黒の世界から、輝ける新しい世界にする
ためにも日本は、今こそ道義国家として、日本的価値観を世界に発信
する責任があります。
