世界経済は日本、米国、欧州、中国で回っています。その中で日本
だけが円を他国のように大量に刷っていません。そのことが「円の
独歩高を止められず、デフレをさらにこじらせる」と多くのエコノ
ミストたちは日銀を批判しています。
慶応大・土井教授は「急激な円高に対し、政府・日銀は米国に先ん
じて為替介入や追加金融緩和を実地すべきだ」「今回の円高がとどめ
となり、企業が生産拠点をアジアなどの海外に移せば、日本は深刻な
産業空洞化を引き起こす」「日本をターゲットにした日本売りが起こっ
ても不思議はない」と相変わらずワンパターンの悲観論ばかりを述べて
います。
まずこれらのことについて私なりの考察をしてみます。日本のエコノ
ミストたちは口を開けば「円高は企業の海外移転を促し、産業空洞化
をもたらし、雇用の消失につながる」と言いますが、本当にそうで
しょうか?
急激な円高に転じた1985年プラザ合意後、信じられないくらいの多く
の企業が海外に進出しました。しかし産業空洞化は全くと言っていいほ
ど起こっていません。
進出した企業が日本の本社まで捨てて海外に移転し、その国の企業に
なってしまったら確実に空洞化が起こりますが、私の知る限りそんな
企業は一軒もありません。
むしろ海外に進出して成功した会社は日本の本社の社員を増やしてい
ます。私がこのように書きますと必ず弱小の中小企業の例を持ちだして
反論されます。
「日本の製造業が海外シフトすれば国内の仕事がなくなっていく」と
常に言われていますが、中小企業も含めて海外に飛び出した80年代は
失業率は2%~3%程度で、出世界的に見ても非常に低水準です。
バブル崩壊によって2001年に5%を突破しましたが工場の海外移転と
は何ら関係がありません。それ以降も海外進出が増えているにもかかわ
らず2007年に3%台まで下がっています。
2009年に戦後最悪を更新して5.5%まで失業率が上がりましたが、
それはリーマンショックによる世界同時不況のせいで工場の海外
移転とは何の関係もありません。
米国や欧州ではこの時点で失業率が10%近くまで上がっています。
日本の5.5%はまさに日本の実力です。
円高になるとテレビでは必ず大田区や東大阪の中小零細企業を放映し
て社長に「この円高ではもうやっていけない、会社を廃業しなければ
ならない」と言わしています。この脳のないテレビ放映は20年も
繰り返し続けています。
確かにそのような企業もありますが、その工場でしか出来ない精密部
品を作っている会社は悠々と経営を続けています。
海外に進出した日本の工場は日本の優秀な部品や資本財を買います。
つまり海外の消費財の生産が伸びれば自動的に資本財の売上が伸びる
構造になっています。
海外に進出した日本の工場だけではありません。世界中の工場が日本の
部品や資本財を買っています。この資本財の日本のシェアーは70%を
超えていると言われています。要するに製造の分野では日本がいなけれ
ば高技術産業製品の生産がストップする状況になっています。
今回の東日本の地震と津波で多くの資本財の日本工場が動かない状況に
なり世界中の工場が悲鳴を上げました。
しかし地震で壊滅状態になった工場をわずか3ヶ月で稼働させた日本に
世界の工場は称賛と畏敬の念を抱いています。
日本の工場は利益を度外視して、世界中の工場に迷惑を掛けるわけには
いけないという一心で昼夜を問わず復興に取り組みました。
日本の製造業で働く人達は、大企業の社長から小さな工場の親父さん
たちまで、みな自分たちの技術がいかに優れ、世界中の工場に必要と
されているかを知っています。
韓国大統領はサムスンやLGの要請を受け、菅首相に今回の地震で部品
の入ってこないことに苦情を述べた。菅首相は平謝りしたそうです。
その機を取らまえて李大統領は部品工場の韓国移転を要請しました。
管首相は意味もわからず了解したそうです。
話はあっちこちに飛びますが要するに日本製造業の海外シフトと産業
空洞化とはあまり関係がないということを言いたかったのです。
つまり日本の輸出の中心は家電や自動車といった耐久消費財から部品や
材料といった資本財がいま輸出の大きな部分を占めています。
輸出するものが耐久消費財と資本財とでは意味するものがまるで違いま
す。要するにいくら円高になっても日本の資本財を買わないわけにはい
かない、資本財をストップすると相手国の工場は止まってしまいます。
韓国は日本製部品への依存度が高いため生産量が増えれば対日赤字も
増えます。以前盧武鉉大統領はこの構図を知り激怒、サムスンのトップ
を呼んで部品の自国生産を言明しましたが結局同じものができずに断念
した経緯があります。
トヨタ、キャノン、村田製作所、小松製作所、などその他の大手を含め
た中小企業まで円高と連動して海外生産比率が加速しています。
日本の製造業の海外生産は2000年時点で50兆円を超えています。最近
のデーターは持っていませんが現在はもっと増えていると思います。
日本の失業率が増えているのは世界的不況のせいで海外に進出した企業
のせいではありません。つまり産業の空洞化など起こっていないという
ことです。
きちんとしたデーターを見ずに先入観でものをいう評論家や学者が
あまりにも多すぎます。彼らが日本の正しい姿を歪めてしまっています。
(長くなってしまいました。次回、この続きを書いてみます。)
