中国国内の工場でストライキが相次ぎ、中国に生産拠点を移してきた外資系
企業に衝撃を与えている。日系企業でもホンダやブラザー工業が一時生産
停止に追い込まれた(12日、産経新聞)
このことに対して英フィナンシャル・タイムは「中国におけるホンダ」と
題した記事で、事件は完全に自発的なストライキであり、背後で糸を引く
存在が見えないと書いています。
フィナンシャル・タイムスは一流でもこの記事を書いた記者は中国のことが
まるで見えていません。ニューヨーク・タイムスも今回の事件について
同じような間違った見方をしています。
日本人は常に海外の一流新聞の記事を鵜呑みにしてしまいがちですが、
これらの一流紙は中国が2007年に新しく作った労働者保護に力点がおかれた
新法を忘れています。
この法律は労働者の解雇を制限する「労働契約法」で事実上、労使間で「終身
雇用」契約を結ぶことを強制しています。違反した場合は賠償金支払いを
義務つけています。
この労働契約法によって賃金を下げられないどころか、解雇が出来なくなり
ます。すなわち裏を返せば賃上げのストを決行しても首を切られる心配が
なくなります。
この法律は2008年1月からすでに施行されています。この法律の危険性は
中国も重々承知です。つまりこの法律によって外資の投資がなくなり、
外資系の企業が逃げ出してしまえば元もこもありません。
そこで中国は2005年くらいから外資系の企業の反応を見るために日系企業で
試しています。
2005年7月頃、中国大連市で日系企業8~10社(東芝、キャノン、その他)の
工場で賃上げを求める中国従業員のストライキが続発、約1万人以上が参加して、
2~3日間実施されました。
中国政府が後ろで糸を引き、大連市が積極的に抑え込みをはかりました。
つまりマッチポンプです。結局大連市が強引にスト解除に動いてくれたこと
によって日本の各企業は安心してしまったのです。
このストによって賃上げが成功し、その後も何事もなかったように工場は
稼働して、日本からの新規の投資も切れることはありませんでした。
当時私は山東省威海で契約式合弁工場を中心に青島や煙台で工場を稼働させて
いました。過去ブログでも私の著書「コラ!中国いい加減にしろ」の中で
詳しく述べていますが、いつでも逃げ出せるように法人各を持たずに威海
工場を運営していました。
この事件のあと威海工場の総経理(中国工場のトップの名称)が私の出張の
時、「当工場も従業員の給料を上げなければいつストが起こるかもしれない。
当然その分を考慮して、出し値も上げて貰う必要がある。」と強硬な態度で
迫ってきました。
時を同じくして、青島や煙台の工場でも同じような値上げの要求をされました。
青島や煙台は不定期の単品ごとの契約です。発注さえしなければなんの問題も
ありません。
しかし威海工場は「契約式合弁会社」で全量当社の製品を作っています。
発注を突然止めれば日本の会社が困ります。
ここで参考のために当社が考えた契約式合弁の契約内容を簡単に説明します。
○独立の法人格をもたせず、当事者双方の共同管理で運営する。
○但し日本側は工場経営には一切関わらない。
○中国側が従業員と建物、日本側が設備と技術を提供。
○期限満了時(3年)に全ての資産を中国側に無償で引き渡す。
○出資額の評価の上で出資比率に応じて権利や責任を決めることなく
全て契約で取り決める。
簡単に書くとこのようなことです。法人格を持たないこのやり方だと中国の
怪しげな法律に縛られることなくいつでも逃げ出すことが出来ます。
当社が設置した機械の耐用年数は日本の税法では5年、実際の耐用年数は
10年くらいです。機械を投入した威海工場は2005年時点ですでに11年が
たっています。
3年で全ての資産を中国側に無償で引き渡す代わりに商品の約5%を値引き
する文言も入っています。この値引きのお陰で全ての(付帯設備も含む)
投資金額はすでに回収しています。
ここで契約式合弁会社である威海工場から手を引いても損は一切ありません。
威海工場の要求は50%の理不尽な値上げです。もちろん交渉次第で40%くらいに
下がることはわかっていますが、あえて交渉せず飲むことにしました。
何故なら逃げることを決意していたからです。勝負は3~6ヶ月の間です。
この間に威海工場で製造している製品を他の工場に振る必要があります。
最初からこのようなことを想定してすでに威海工場だけに頼らず青島や煙台、
その他の工場で時たま発注をかけていました。これらの工場の値上げ要求は
約20%です。
これらの工場とは今後技術指導、特殊な機械の導入と数量と回数を増やす
ことを条件に値上げをさせませんでした。
(今日も長くなりそうなのでこの続きは次回にて)
