前回は内容の濃いコメントをいただき大変勉強になりました。主張が二つに
分かれていて興味深く拝見させていただきました。
日本のエコノミストの多くは、誰でもが理解しやすい常識論で主張している実感派
の人たちが主流を占めていると思われます。だから多くの共感を得られるのです。
しかし常識論で判断するのなら、経済学などいりません。これならケインズも
サムエルソンもケインズ経済学を批判したフリードマンもポール・クルーグマンも
全く勉強する必要がありません。(私も単に名前を知っているだけ)
私のような単純ビジネスマンがテレビで主張するエコノミストたちの論に
納得出来ないのは思考回路が違うような気がします。
ビジネスマンの多くは必要に迫られて会計学を少しかじります。すると
思考回路は自然に複式簿記つまりバランスシートになってしまいます。
つまり借方金額の総計と貸方金額の総計とは同じなのです。
当たり前のことですが!
エコノミストの誰もが財政赤字について恐怖を煽るような口調で論じ、
赤字こそ問題だと言う言い方をして、増税(消費税)の正当性を主張しています。
しかし赤字の総計だけの数字を見て危険を煽るのは少し違うと思います。
その中には政府内部保有つまりその大部分は国民のための社会保障基金のような
各種信託基金による保有もあります。
それと国の運用上の支出と資本的な支出とを区別していません。資本支出とは
民間企業では機械を買ったり工場を建てたりする設備投資のことです。
国では道路やダムその他の公共投資のことです。
会計学ではこれらの資本支出を経費勘定からはずして、減価償却だけを費用
として計上します。もし資本勘定を別建てにしなければ、ほとんど全ての
企業は赤字企業になってしまいます。
減価償却について簡単に説明しますと、あなたが車一台で運送会社を始めた
としましよう。あなたの自動車は10年使えるとする。運送会社で稼いだ
利益を毎年全部使ってしまったら、10年後には新車を買うために借金する
ことになります。こんなことが続けば借金が増えるばかりです。
そこで10年後に新車に買い替えるために毎年、適当な金額を積み立てておく
そのための会計手続きを減価償却といいます。
会計学で政府を見ることは余計にややこしくなり、私の知識では無理があります。
この辺で止めます。
国債を発行して紙幣を刷り続ければインフレになるというエコノミストにたいする
答えはとりあえず、この10年間赤字はかなり大きかったがインフレに
ならずに逆にデフレになっていったということです。
かといって国債を無制限に発行すればいいと言うつもりもありません。つねに
国債の増発をとめる方法論は必要です。そのために我々は将来での生産の
準備をしなければ経済の発展は止まってしまいます。
言い換えれば明日より多くのものを得るためには今日我々は、公共および民間
のより多くの資本の蓄積に努めなければなりません。この資本蓄積のことを
投資と呼びます。
政府は今まで国債を発行してインフラという基本の投資を十分にしてきました。
これからの政府の投資は以前ブログでも書きましたが、日本の得意技である
先端技術産業を起爆剤とする「新産業革命」に投資すべきです。
すなわちロボット工学、エレクトロニクス、電気通信、バイオテクノロジー、
深海海底開発、レーザー技術、石油代替エネルギー、などいくらでも
考えられます。
ここで私の下手な説明より簡単に経済が分かる話をしましょう。
ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンの書籍から「ベビーシッター
協力組合」の話を要約して書いてみます。これを読めば景気後退がどのようにして
起きるのか、そしていかにそれに対応するべきか、ということが簡単にわかります。
[この例え話とは、ある若い夫婦はベビーシッター協力組合のメンバーだった。
この会の規模は150組でお互いの子供たちのベビーシッターをしていた。
それぞれの夫婦が公平な分担を受け持つように組合は代用紙幣として
クーポン券を支給することにした。
このクーポン券は1枚で1時間のベビーシッターをしてもらうことが出来る。
赤ん坊を見てもらう際にはベビーシッターは赤ん坊の親から時間数に応じた
枚数のクーポン券を受け取る。
このシステムは理論上、公平なはずだった。いずれ各夫婦は、ベビーシッター
をしてもらった時間とまったく同等の時間数、ベビーシッターをするように
なるはずだった。
しかし当面出かける計画もない夫婦は、将来必要になった場合のために
クーポン券を貯めたが、それは他の夫婦のクーポン券の数が少なくなること
を意味した。
結果は奇妙なものになった。クーポンの貯えが不十分であると思った夫婦は、
ベビーシッターをすることを強く望み、外出しなくなってきた。夫婦が外出を
控えるようになると、ベビーシッターをする機会も減少する。
そうなるとベビーシッターをする機会を見つけることがなおさら難しくなり、
夫婦はクーポンを特別な機会のためにとっておこうと、貯めたクーポンを
使わないようにする。したがって、さらにベビーシッターをする機会が減少
していく。
要するに、ベビーシッター協力組合は景気後退局面に入ったのである。
問題は単純に「有効需要」が欠如したために起こった。
物の消費(ベビーシッター時間)があまりにも少なく、その一方でメンバーが
現金(クーポン)を蓄積しようとしたために起こったのだ。
ここから導き出される現実社会への教訓は、景気循環は経済のファンダメン
タルズの強さや弱さとはほとんど無関係に発生するということである。
そこでベビーシッター協力組合はクーポンの供給量を増やすことになった。
結果は驚くべきものだった。たくさんのクーポンを貯えたメンバーたちは
外出するようになり、それによってベビーシッターをする機会も増え、その
結果さらに外出する機会が増えた。
これは協力組合のあり方に構造的な改革が実施されたからでもない。ただ
単に、通貨供給の間違いが正されただけなのである。
換言するならば、景気後退は、ただ紙幣を印刷することによって解決する
ことができるのだ。
景気後退とは通常、人々が貯蓄に走ることに起因し(つまり投資よりも貯蓄
が多くなる状況)、より多くのクーポンを発行することによって解決することが
できる」
ノーベル経済学賞を受賞した教授のこの話を読んで皆様はどのように思われ
ましたか?現実世界におけるクーポンの発行者は日本では日本銀行です。
日本の場合、例によって著名な経済学者たちは、常に「構造的な問題」と
して扱い問題を複雑化させています。もちろんあまりにも通貨供給量を
増大させてしまうと結果としてインフレを招きます。
人生は短い。しかし1年よりは長い、将来の不測の事態に備えて、貯蓄も
また重要なことです。そして日本の成功は高い貯蓄率のおかげであると
いうこともまた事実です。
