前回の続きです。今日も副島隆彦氏の論に異議を唱えたいと思います。
正直どこから手を付けたらいいのか、迷いながら書いています。副島氏の
著書で書かれている中国論を細かく批判していけばきりがありません。
そこで今日はこの著書の全体を眺めて、副島氏の中国論と対峙しながら私
の中国論を書いてみます。
副島氏の著書の中に「中国はやがて共産党独裁を廃止して民主国家になる。
ウイグル人もチベット人も台湾人も、いじめないで彼らに大幅な自冶権を
与えて中国体制を平和的に支える周辺民族として手厚く処遇すると決める
だろう」と書いています。副島氏の中国論の結論がこの文章によく表れて
います。
副島氏の「あと5年で中国が世界を制覇する」の著書のあとがきに、「中国
は、いよいよ平和な帝国になりつつある」とのべています。
いったいどういう根拠をもって中国は平和な帝国になりつつあると言える
のか、あまりの能天気に唖然としています。
なぜ彼はこの恐ろしいまでの中国楽観論に行き着くのかを推察しながら、
私の中国悲観論を述べて見たいと思います。
副島氏の中国論と私の中国論の根本的な違いは彼の論には中国人間学が
すっぽり抜けているということです。つまり中国人をわれわれ日本人と
同じように思考する人間とみて判断をするから、楽観論に行き着くのです。
なにも中国の2000年くらいの混乱の歴史を勉強しなくても直近の毛沢東
以降の歴史を振り返るだけで中国人が見えてきます。それは中国人が
究極的な理念に欠け、人間を大切にする概念がまるで無い民族だという
ことです。
中国人は欧米人も日本人も持っている人間の基礎である慈悲の心と思い
やりの心を過酷なまでの悲惨な歴史の中で無くしていったのです。
その象徴が毛沢東です。彼の政権は恐怖の力によって運営され、人民は
囚人のように監視されていました。
ユン・チアンの著書「誰も知らなかった毛沢東、マオ」の中で信じられない
くらい残酷な光景を書いています。「ある若いイギリス人女性は、北京の
中心部でおこなわれた集会を目撃した。約200人が街路を引き回されたあと
頭を打ちぬかれて処刑され、脳みそが見物人のところまで飛び散った。
死体を積んだトラックが血をしたたらせながら街路を往来していた。
人民の大多数、子供も大人も暴力行為や殺人行為を見ることを望んだ。
全国民の脳裏に恐ろしく残忍な光景を刻み付けるためだ。
そのやり方は犯罪人を人目に触れないところで処理したスターリンや
ヒットラーをはるかに凌ぐ残忍さだった」と書いています。
この残忍な人間性に対する空前の蹂躙が今日でもまだ続いているのが
中国なのです。中国のこのような冷厳な現実を考量せずに中国楽観論を
展開することは、日本人をいつまでたっても中国を見誤り、いくらだま
され、恫喝され、被害をこうむっても、また同じ過ちをくりかえします。
副島氏やその他の親中評論家たちのように経済や軍事、巨大人口だけで
捉える中国観ではなく、歴史や文明や価値観まで含めた捉えかたをしない
と中国問題の本質が見えてきません。
副島氏のように「経済発展と貿易拡大が徐々に中国に民主化をもたらす」
という論はあまりにも底が浅すぎます。
彼は著書の最後に「あと5年で中国が世界を制覇する」を書き上げるため
に、編集部の担当者と一緒に上海、北京、香港、南京、広東省、瀋陽、
丹東、大連への調査旅行にいったと書いています。
まさにのん気な観光気分です。
彼のような評論家の常として、まず結論を日本で構築してから現場に
調査に行きます。本を年間に何冊もだす人が一箇所に長くとどまって
体験できるわけも無く通り一遍の観光旅行でいったい何がわかりますか?
中国はあまりに広大です。暴動や労働争議、地方役人の農民からの土地
収用などは北京や香港の一流ホテルで出くわすわけがない、大雪、洪水、
手抜きインフラによる災害、農村や少数民族の悲劇など、旅行者にとって
どこか遠方の出来事です。
副島殿、観光旅行で上海や、香港のまばゆい光に目を奪われていては、
中国の真実は何も見えません。
副島氏の本を読んで中国の未来を信じて突進する中小企業の社長様、
今一度よく考えてください。
たしかに中国はこの20年のあいだに大きく変わりました。しかし何が
変わり 何が変わっていないかをよく知る必要があります。
中国はあまりにも大きくて、複雑すぎます。それゆえ欧米や日本も中国
に対して大量の情報洪水でバランスをなくしています。
私は世界の経済常識を無視した滅茶苦茶な中国経営は、見かけの力とは
裏腹にもはや限界に達しているのではないかと思っています。
人民の基本的な要求を満たすことが出来ない共産党政権に対する人民の
不満は沸点に近づいています。
世界一の人口の多い国、核武装をしていて、ミサイルの発射準備を整えた
国が内部叛乱で迷走を始めたら、いったいどんなことが起こるのか?
遠く離れたアメリカでも安全とはいえない。
なにしろ60年前に作られた体制が揺らぎ始めています。共産党幹部は
なにをどうしたらいいやら、まるでわかっていません。
腐敗幹部の反発や、重い負担に耐えかねた農民の決起(約8万件)は年々
増えています。副島氏やマスコミのように沿海地域の発展に目を奪われて
いては「中国大乱」の予兆は感知できません。
「中国の明日」はどうなるのか?無法者に輝ける明日は来ない。
