
今日はパキスタン出張の思い出を書こうと思います。
昔、I B O(大阪国際ビジネス振興協会)からパキスタンの視察のお誘いをうけた。日本の繊維関係の企業を集め視察の費用はパキスタン政府が負担するという内容。
滅多に行ける国ではない、即座にOK。
「しかし何故大企業でなく当社のような中小企業なのか?」と率直な疑問をぶつける。
『輸入するような品物は何も無い、命を賭けてまで行く国ではないと言われ大企業には全て断られた。仕方ないのでランクを落とした。』
『日本政府から10社以上の企業を募集するように言われているがまだ御社以外OKをもらっていない、何社かつれていかないと政府の面子がつぶれる』と鬼気迫る勢い。
にもかかわらずやってきた企業は当日弊社を入れてわずか3社、おまけにパキスタン政府の要請は首都イスラマバードでなく商業地カラチ。
航路は、北京~イスラマバード~カラチ、北京で約2時間待ち、イスラマバードで一時間待ち総計約15時間のフライト、到着時間は現地時間真夜中の12時、日本時間朝の4時
一睡もせずに9時出発で服飾の展示場に到着しさっそく商品を見て唖然。
同行した日本のIBOの担当者に愚痴をこぼす。
「こんなひどい商品を見るために15時間もかけてやってきたのですか。」
『パキスタン友好の為にがまんしてください』
日本はパキスタンから糸と生地を買っていてもフアッションは買うつもりはない。
もともとパキスタンの希望で綿を糸にする機械をODAで無償援助した。何年か経つと、綿糸で売るより原反で売りたいと言い出した。そこで日本政府は紡績の機械を再び無償援助した。ところが最近原反ではなくもっと付加価値の付くファッションで売りたいとどんどん欲望がエスカレートしだしたのだと言う。
そんなパキスタンでこの後、思いもよらない展開に。
政府の都合でパキスタンくんだりまでやってきた前回のつづき
パキスタン友好のためにと我慢した最悪の服飾展示会が終わり、
この後政府関係の要人たちと民間の企業が我々を出迎えカラチの商工会議所に連れて行かれる。そして早速会議で感想を聞かれる。
『先ほどの服飾はいかがですか』
同行の日本企業の一人が「悪くないです」と答える。
こんどは私が指名された。
極度の疲労でつい正直に言ってしまう。
「日本の女性はただでも要らないと思います。」
全員が鋭い視線で私を見た、横に座っているIBOの担当者が足をつついた。
しかしそれを無視してさらに発言を続ける。
「売りたいのならデザインは我々に任して縫製だけをしたほうが良いでしょう。」
会議の終わった後でパキスタンの役人が、私の側に寄ってきて
『貴方は韓国人ですか?』
「いいえ100%日本人です」
『私の知っている日本人は,けっして嫌な事は言わない、優しくて、紳士です』
ナヌー;(私は野人か)
その晩、同行諸氏とホテルで食事、真っ先にビアーと叫ぶとIBOの担当者
「この国はイスラム教徒の国なのでお酒は飲めません。」
ナヌー;(分かっていれば来なかった)
翌日予定変更して無理やり縫製工場に連れていかれる、私の発言のせいです。
同行諸氏にゴメンナサイと謝る。
そして縫製工場を見て驚いた、ミシンを踏んでいるのは全員男性、理由を聞く。
「この国では女性は外で働く事は出来ません」
ナヌー;(これでは中国に勝てないぞ)
午後から観光大臣の前に連れて行かれる、例によって会議。
「わが国は世界に誇れるガンダーラ遺跡がある、日本人にもっと来て頂きたい、どうすれば観光客を誘致できるか皆様の意見を聞きたい」と大臣が切り出した。
私がしゃべれば日パ友好にひびがはいる。
なるべく目を会わさないように天井を見る。
それぞれが意見を言った後、危険を察したIBOの担当者は長く喋り続けたおかげで?私は一言もしゃべらずに会議は終わりを迎えた。
終わった後次の予定があるので失礼しますと席を立とうとすると大臣は一言も喋らない私をみて『貴方の意見も聞きたい』と言った。
IBO担当者は不安そうに私を見ている。
しかたが無いのでしゃべり出す。
「ホテルでお酒も出てこないような所に一般観光客は来ないと思います。日本人はイスラム教徒ではないのでホテルでは外人にはお酒を出すべきでは。」
ア~また言ってしまった。
大臣は鋭い視線で私を見る。
『ホテルではお酒を出せませんが、日本からお酒を持ってきてホテルの自室でこっそり飲めば問題はない』
ナヌー;(私は犯罪者か)
パキスタンの出張はほぼ日程を終え、最終の晩餐を残すのみとなった。

大手企業が辞退する中、旅費ただにつられてやってきたパキスタン。疲れの為か失言の嵐で日パの間に緊張が走った前回のつづき。
パキスタン出張の最終日、日本から来たメンバーで食事に行く予定だったがIBO担当者は疲れている事を理由に辞退する。
どうも私のせいで辞退したみたい。申し訳なかったと反省しながらその他の同行諸氏とホテルで食事をし、終わると自室に戻りテレビを見ていた。
すると電話が鳴る。誰だろう、電話に出るとなんとパキスタン政府の要人。
ドキッとするも話を聞くとどうやら貴方の意見をもっと聞きたいとのことだった。
今から迎えに行くと有無をいわさぬ雰囲気、しかたなしに承諾。
現場に到着すると18人くらい座り今から食事するところだった。
テーブルにはミネラルウオーターが置いてありなぜか赤い布が巻いてある。
一人が立ち上がって『ミネラルウォーターをビールと思って飲んでください。』
せっかく招かれたので私も立ち上がってご挨拶
『我々をこの国に招待してくださって有難うございます。私は不思議に思うことが一つある。』と話し始める。
すると皆が鋭い視線で私を見る。
「この国のえらい人たちはビールも飲まないのにお腹がでている。今、原因が分かりました。ミネラルウォーターをビールと思って飲んでいるから胃の中でビールに変わるのですね。」
軽くジョークを入れるとパキスタンの人達のこわばった顔がゆるんだ。
調子に乗って挨拶を続ける。
「さすが5000年の歴史、インダス文明の発祥地、尊敬します。」
笑いが起こる。もう完全に警戒心は解いてくれたようだ。
「今日は思い切りミネラルを飲んで酔っ払いたいと思います。」
そう締めくくると会場は笑顔と拍手でいっぱいに。
なごやかな雰囲気で食事が始まった。
食事中隣に座っていた要人の一人が私にしゃべりかけてきた。
『貴方は口も悪いが冗談もうまいね。私が会った日本人は皆様上品でおとなしい人だったよ。貴方のような日本人は珍しい。』と笑いながら言った。
この後、パキスタンの産業やビジネス、未来について語り合った。アドバイスとまではいかなくとも向こうもおおいに参考になると言ってくれた。
晩餐も終わりを向かえ大いに日本パキスタンの友好もはかれ、私の役目??も終わった。
口を滑らしつい正直に言ってしまったことから始まったパキスタン視察。
何事も正直に付き合ったり、向き合うのが大事なことなのかなと思った旅であったが帰りの飛行機でふと気づく。
まったく観光していないではないか!!!
世の中にただは無いということを思い知った旅でもあった。