13日に就任した英国のテリーザ・メイ首相は離脱派を主導したジョンソン
前ロンドン市長を英外相に任命した。(ロンドン時事)
ジョンソン氏外相就任をめぐり世界中が仰天したようです。
フランスのエロー外相は14日ジョンソン氏を「うそつき」と批判、
スエーデンのビルト元首相は「冗談であってほしかったが、そうではないよ
うだ」とジョンソン氏の起用の真意をいぶかった。
これら一連の記事からイギリスの真意と困惑を分析したいと思います。
それにはメイ首相の組閣を見ればすべてイギリスの本音が見えてきます。
離脱派は、 外相、国際貿易相、EU離脱担当相、
残留派は、 財務相、内相、国防相、
離脱派と残留派が3対3のイーブンになっています。メイ首相は内相時代は
残留派でした。自分が今度は首相になった以上普通の感覚では、離脱派を排
除して残留派で組閣をするはずです。ところが新内閣の主な顔ぶれはEU離
脱派の人物を要職に配置しました。ここからイギリスの正体が見えてきました。
つまり離脱派を主導したエリートたちの本音は残留派で、まさか国民投票で
離脱派が勝つとは思っていなかった。離脱派が勝利した瞬間、放心して何も
言わないジョンソン氏の顔がすべてを物語っていました。
イギリスの戦略はEUを弱体化させることです。EUではドイツとフランス
とイギリスによる三頭政治が行われてきました。イギリスがEUに参加した
のはドイツを牽制することが目的です。
戦後イギリスはアメリカを操り、米ソを鋭く対立させ、仇敵ドイツを東西に
分断させ欧州大陸を米英の支配下に置く冷戦構造を作り上げた。その後アメ
リカの力が強くなり、アメリカは独仏にEUを作らせ、常に上から目線の
イギリスをドイツ傘下のEUに「恒久幽閉」して潰し、イギリスの力を弱め
ることに成功しました。
独仏の目的は、政治経済の国家統合を加速させ、加盟する諸国の国家主権を
剥奪してEUを事実上の欧州合衆国にすることです。EUの国家統合が成功
すると、それを主導する欧州最大の経済大国であるドイツが全欧を支配する
ことになります。イギリスが仇敵ドイツを嫌うのは当然のことです。
ドイツはイギリスの陰謀を薄々知っていたので、イギリスの好むとおりに政
治よりも経済の統合を先にやり、英国を甘やかし言い分を聞いてやった。
結果イギリスは単一通貨ユーロや,域内での人の自由な移動を定めたシェン
ゲン協定にも参加せず、EU加盟国よりもずっと柔軟で特別待遇を受けていた。
欧州大陸を経済的に発展させ、安定した強い地域にしたい独仏に対してイギ
リスは昔から大陸諸国が強くなることが恐怖でした。何故なら過去、欧州を
統一した強国が次に英国を攻めるからです。
イギリスはEUを破壊さすために、貧乏諸国の東欧やバルカン諸国に対して
加盟を強く勧め、EUが弱体化するように仕向けた。そして各国のナショナ
リズムを扇動して大陸諸国を反目させてきました。
今回の国民投票はイギリスが放った新たなEU破壊工作です。世論調査によ
るとイギリスよりフランスの方がEU離脱派が多い、そこでイギリスは国民
投票をやってイギリスは僅差でEUへの残留を決めるが、イギリスに影響さ
れて投票をするフランスは僅差でEUからの離脱をきめる。そうなれば独仏
を中心としたEUの国家統合計画が崩壊するというシナリオでした。
しかしイギリスのEU破壊工作は大事な一点だけ大失敗しました。それが
今回の国民投票の結果でした。
イギリスのエリートたちは事前調査で残留派が僅差で勝つとの予測で安心し
ていましたが、それでも心配になったエリートたちは直前マスコミを使っ
て「EU離脱派が勝つと大参事になる」報じ脅し続けました。
所得の伸びや機会の拡大といった恩恵に長くあずかれなかった労働者階級
をエリートたちは、あまりにも長い間みくびってきました。結果政治家エ
リートたちは予測を誤り労働者階級への誘導に失敗しました。
イギリスには上流階級、中流階級、労働者階級とに分かれ、日本人では想像
もできない英国階級社会が存在しています。
イギリス人は、階級によって、英語のアクセント、服装、読んでいる新聞が
違います。彼らは、同じ階級同士で交わるのを好みます。イギリスでは、
基本的に自分の出自がそのまま階級を示します。
今回の国民投票では「労働移民の制限」が大きな論点でした。離脱派の労働
者たちは「これ以上、外国人に職を奪われたくない」という気持ちですが、
日本企業などは、イギリスの怠け者な若者よりも、東欧からの移民の方がま
じめでよく働くと言っています。他の多国籍企業も同じ考えだと思います。
危機感を感じたイギリスの古い労働者たちは多国籍企業や巨大投資銀行、
そしてエリート政治家たちと戦ったのです。
英国に拠点を置く日本企業は1084社(2014年時点)そこで約16万人が働
いています。数字上は16万人ですが、付帯事業まで入れるととてつもない
経済圏です。製造業が衰退し金融業が特化していったイギリスにおいて英国
脱出を検討する日本に見放されるとたちまち不況になり失業率が上がります。
すでにイギリスの若者の多くは、イギリスのEU離脱が決定した直後から
ロンドンに代わる起業の中心地を求めて、ドイツの求人サイトに殺到して、
全サーバーがパンク状態になっているそうです。
イギリスの雇用環境への不安は今後さらに高まり、結果、消費や住宅市場を
直撃し、イギリス経済が衰退していきます。
離脱派を率いていたボリス・ジョンソンらは離脱派が勝った時点で急に何も
言わなくなり、離脱決定を長引かせ、あわよくば帳消にしたいために、外相
に就任しました。ドイツのメルケルはEUを存続さすために、イギリスの
EU離脱の代価がいかに大きいかをEU諸国に見せる良い機会を得ました。
しかしイギリスはしばらくの間、EUの共通政策について投票権を持ち続ける
ことになります。ということは離脱交渉で有利な条件を引き出すために、EU
を混乱させる戦略に出ます。この状態が続けば不透明感を嫌う金融市場が
嫌がり、他の加盟国でも離脱を問う国民投票の実施を求める声が勢いづき
ます。
EU上層部ではイギリスにやさしいメルケル独首相がイギリスと新たな協定を
結ぶことに推進しているのではないかと疑っています。だからEU大統領の
ユンケルはイギリスを早くやめさして、独仏で欧州合衆国を目指すべきだと
主張しています。
おそらく数年先イギリスはもう一度国民投票をやってEUに戻ってきます。
その際力のなくなった基軸通貨であるポンドを捨てユーロ圏に参加すること
をドイツに強要されます。イギリスは全ての予測を見誤った。
イギリスエリート社会は世界中に植民地を構えた大英帝国のプライドで世界
がまるで見えていません。中国の金に目がくらんだ時点でイギリスの没落が
すでに決定しています。
イギリスのエリートたちは日本人と中国人を同じレベルでしか見ていません。
目立たないところでイギリス経済を発展させた日本企業がまるで見えていな
かった。日本の企業がイギリスから去ったときその衝撃の大きさが分かります。
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