アウンサンスーチー氏率いるNLD(国民民主連盟)が11月8日のミャン
マー総選挙で圧勝してから、日本ではアウンサンスーチーに関するニュース
が増えました。
党首であるアウンサンスーチー氏は外国メディアとのインタビューで、次期
大統領は何の権限もないと明言。自身の大統領就任を禁じた憲法規定に
合わせるために任命されるにすぎないとして「私が全てを決定する」と強調
しましました。
英国籍の子供がいるスーチー氏は憲法の規定で大統領になれないことから、
側近のティン・チョー氏を代理として大統領に擁立し、新設の「国家顧問」
になり、「大統領を上回る存在」を合法化しました。
そして権力の集中を図るために、外相、大統領府相、電力・エネルギー相
といった要職を一手に握りました。4閣僚に就任した3月30日以降、記者
会見を拒否し、沈黙を貫いています。
これら一連の動きを見て「アウンサンスーチーも独裁者になったのか」という
報道や「ミャンマーの民主化とは、果たして本物なのか」という声がきこえて
きます。しかしミャンマーはアジアの中でも何もかも遅れた後進国です。
後進国にとって国の発展のスピードを上げるためには独裁者にならざるを
得ません。とくにミャンマーの場合軍人支配が半世紀に以上に及びました。
いわゆる軍事政権は中国資本と結託して住民を無視し、中国に自国の自然
の富を売り払ってしまいました。結果エネルギー資源が豊富なのに、停電は
日常茶飯事で、ダムで発電した電力は、およそ9割が中国に送られる始末、
結果国民は効率の悪い自家発電機を中国から買い、そのうえ天然ガスと
原油を中国に送る2本のパイプラインを造るなど、中国のやりたい放題です。
だからスーチーは電力・エネルギー相になって中国依存からの脱却を図ろう
と日本と欧米との関係強化を意図しています。軍政権は中国との共同事業
ではいつもミャンマーは不利な立場に置かれてきました。
脱中国を目指すスーチーは独裁者にならないかぎり中国の影響力を排除
できません。ミャンマーは日本の中小企業を誘致して経済発展を促したい
考えを公に表明しました。日本も、豊富な石油・天然ガス資源、鉱物資源だけ
でなく充分な安い労働力と広大な市場を持つミャンマーをアジア最後の「フロ
ンティア」と注目しています。
私は以前、国が発展するなら2011年に就任したテインセイン軍事政権も悪く
無いと思っていました。彼は就任してから4年半、中国からの影響力をなる
べく少なくし、国際社会も驚くような前向きの改革をやり遂げました。
だから日本政府もテインセイン政権下のミャンマーに多角的かつ大量の
援助を実施してきました。しかしスーチー氏は軍政府に支援する日本を
批判し嫌っていました。
日本も彼女は「軍政に反対するあまり、自国の経済発展をないがしろにし、
軍政と協力してミャンマーの経済発展に協力する姿勢を見せず、いたずらに
民主主義の理想論ばかりを説く」と彼女の頑固ぶりにヘキヘキしていました。
ところが政権の座についたスーチー氏は日本に前向きの姿勢を見せ、さらな
る投資と経済援助を取り付けるために親密さを増し続けています。日本外務
省は早速2000億円の借金をチャラにし、510億円の円借款を供与すると
発表しました。自国の利益の最大化を図ることこそが、ミャンマーにとって
今一番必要なことです。
つまりスーチー氏にとって経済発展によって国民が豊かになることが目的で
そのために民主主義と矛盾する独裁政権が「正しい手段」なのです。
日本嫌いのスーチー氏が 「自国の発展に一番力を貸してくれるのは日本
である」 と認識していることは間違いのない事実です。政権に金をばらまき、
好き放題する危険な中国や、金融が支配しているアメリカよりも、誠実な
日本人をスーチー氏は信用をしているということです。
民主国家であれ、独裁国家であれ、指導者の良し悪しは「自分の利益より
国民の利益しか考えないひと、つまり「人物の道徳性」によって判断すべき
だと思います。
スーチー氏は4閣僚を兼任していましたが、そのうちの電力・エネルギー相
を信頼の置ける実務型の人物に振り分けました。マスコミは「独裁者」との
批判を避けるために2ポストを返上して、批判をかわす狙いがあると報道
していますが、それは違います。
軍事政権時代の電力・エネルギー相は中国に取りこまれて自国の自然の富
を売り払ってしまったために、スーチー氏は過度の中国依存を警戒して利権
の絡む閣僚ポストの人選に慎重だったのです。
しかしスーチー氏は最大貿易国である中国を邪険にするわけにもいかず、
また国境付近では、中国系少数民族武装勢力と国軍の紛争が続いており、
内戦の全土終結への協力を中国に求めるためにも表面上は中国と仲良く
せざるを得ません。
今後スーチー氏の大仕事は、経済的・技術的には日本、軍事的にはアメ
リカを味方につけ、どう中国を牽制し、中国資本に対抗していくかです。
ヤクザ国家中国を徐々に排除しないかぎり、ミャンマー国民の幸せを勝ち取
ることは難しいのではないかと思います。
3冊めの本が発売されました。
☆こちらからご購入できます☆
