露軍機撃墜の真実 12月2日(水)


トルコ軍によるロシア軍機撃墜のニュースには驚く共に、謎が多すぎて
まるで推理小説を解くような奇妙な感覚に襲われました。

トルコとロシアの言い分は領空侵犯の有無をめぐって食い違っています。
どちらの言い分が本当の事を言っているのかを起点にして、双方の複雑な
背景を探って見たいと思います。

日本人の持っているイメージなら嫌いなロシアがウソつきで、トルコが正
しいことを言っているように感じますが、双方とも目くそ鼻くそのたぐいです。

トルコ政府は「ロシア軍機が自国の領空を侵犯したので撃墜した。何度も
警告したが無視された」ロシア政府は「ロシア軍機はずっとシリア領内を飛
んでおり、トルコの領空を侵犯していない」と言っています。

トルコ政府の「何度も警告したが無視された」とロシア政府の「領空を
侵犯していない」のセリフは双方と嘘だと思います。

まずトルコとシリアの国境線は西部において蛇行しています。トルコの
領土がシリア側に細長く突起状に入り込んでいる場所があります。ロシ
ア軍機はテロ組織を退治するシリア政府の地上軍を援護するために
毎日トルコ国境の近くを旋回していました。

ロシア軍機はシリア北部を旋回中にトルコ領(細長く入り込んでいる場所)
をうかつにも(あるいは知っていて)数秒間、数回領空侵犯をした事は
事実です。しかしわずか数秒間の領空通過を理由にロシア軍機を撃墜
するなど常識では考えられない。

もちろん領空侵犯は1秒でも違法行為ですが、通常では自国の直接の
脅威にならない場合は、撃墜などしない。ロシアを戦後長く敵だと認識
していたアメリカ政府すら、ロシア軍機の領空侵犯は何秒間かの長さに
すぎないと発表しています。

それではトルコの真意は何処にあるのか、トルコ政府が支援してきたトル
クメン人をロシア軍機が空爆して潰しかけていたからです。トルクメン人は
反アサド勢力で、トルコもアサド政権を潰すためにトルクメン人を支援し
トルコの代理勢力にしていました。

共通の敵である過激派組織「イスラム国」を打倒する名目でロシアは
空爆を始めたが、トルクメン人勢力も爆撃。これにトルコが激怒し、
緊張が高まっていました。

そもそも両国は歴史的に因縁がある。オスマン帝国がバルカン半島を
失った19世紀の戦争を含め、広い意味で「露土戦争」は10回以上。
プーチン大統領が今年、オスマン帝国によるアルメニア人迫害を「ジェノ
サイド(集団虐殺)」と表現するなど、歴史認識の対立もある。

ウクライナ問題でも関係がこじれている。ロシアが「固有の領土」と主張し
て一方的に編入したクリミア半島は、18世紀までオスマン帝国の支配下に
あった。先住民族タタール人はトルコ系。トルコはプーチン政権によるタ
タール人の人権侵害を非難し、編入はもちろん認めていない。

オスマン帝国について少し説明します。オスマン帝国とはトルコ系民族に
よる征服王朝であり、支配層はトルコ人であったが、その領内にはアラブ
人、エジプト人、ギリシア人、スラヴ人、ユダヤ人などなど、多数の民族
から形成される複合的な多民族国家です。

確かにこの王朝はトルコ系民族を出自としており、公用語もテュルク系
の言語(オスマン・トルコ語)です。しかし、実際には支配者層も被支配者
層も多様な民族・宗教を出自とする人々により構成されており、トルコ人
が帝国内の他の民族と比べて特に優遇されていたわけでもなければ、
ましてや当時のトルコ人自身が「オスマン帝国は俺たちトルコ人の国家
だ!」と考えていたわけでもありません。

その一方で対外的にはトルコと称され続けたが、オスマン帝国がトルコ
と自称し始めるのは民族意識の強まる近代になってからです。

話を元に戻します。トルコが今回、ロシア軍機を撃墜した本当の理由は、
数秒間の領空侵犯をしたからではありません。トルクメン人(トルコ系の
民族)をロシアが空爆して壊滅させかけていたからです。

ロシアの真の狙いはISISのテロ組織の爆撃より、ロシアが擁護している
アサド政権を攻撃するトルクメン人を排除することです。ロシアの認識では、
トルクメン人はテロ組織です。トルコはそうでないと言っています。

しかしトルクメン人は、トルコから武器をもらいテロ組織のアルカイダに合
流してアサドのシリア政府軍と戦っています。ロシアは今までアサド政権を
攻撃するトルクメン人やアメリカが支援している穏健派の反政府軍を攻撃し
てきたが、ロシアは孤立を避けるため、また一方的に編入したクリミア半島
の批判をかわす為にISISの攻撃を本格化させています。

そこでロシアはISISの資金源である精油所やタンクローリー車を空爆し始
めました。ISISの泥棒してきた石油を密かに買っているトルコにとって
非情に都合が悪い。何故ならトルコが買っているというよりエルドアン大統
領の別働隊が買い入れ政治資金にしているからです。この情報はロシア
が既に欧州各国に流しています。

いままで日米欧の敵はロシアでした。しかしここに至ってトルコの陰謀が
あからさまになってきました。9月末のロシア軍の進出によってトルコは
国境地帯を封鎖されて密かに支援しているISISに武器を渡しづらくなって
います。ロシアの空爆により戦士の数も激減しています。

そこでトルコは急いでISISの戦士になりたい志願者を集めています。
10月初めくらいからトルコに入国したISIS志願兵の総数は2万人近くに
のぼっています。(英國のガーディアン紙)

もしトルコとロシアが戦争状態になれば、欧州は心情的には敵国であった
ロシアの味方になります。何故なら国際社会の全体がロシア主導のISIS
退治に同調しているからです。

しかしトルコはNATOの加盟国です。NATOは、加盟国の一つが敵と戦争
になれば、全ての同盟国がその敵と戦うことを義務付けています。という
ことは露土戦争が起これば米国を筆頭とするNATO諸国は、トルコに味方
してロシアと戦わねばならなくなります。

だからプーチンは悔しくともトルコと戦争が出来ません。トルコのエルドラン
はこのことを承知でロシア軍機を撃墜したのです。そもそもNATOはソ連
を敵として作られた組織です。しかしフランスを筆頭にEU諸国はテロ組織
ISISを一掃してアサド政権を安定化させようとしているロシアに好意的です。

シリアを安定化させることによって、結果、難民が祖国に戻れるようになれ
ます。ところがトルコは、国内にいた大勢のシリア難民をEUに流入させ、
難民危機を誘発させました。このトルコの悪だくみにEUは激怒しています。

トルコはNATOに入れてもらえたが、長年の希望であるEUには入れてもら
えません。トルコはイスラム教徒でキリスト教徒ではないからです。だから
その恨みでもあります。

ロシアは報復のため、トルコの仇敵であるシリアのクルド人に急接近して
います。ところがクルド人にはアメリカが既に武器や資金を供給していま
す。アメリカは地上部隊を投入する代わりにクルド人を使ってアサド政権
を攻撃させています。

クルド人の女性戦士は勇敢でアサドの軍隊を蹴散らしています。イスラム
の教えに女性に殺されると天国にはいけないという教えがあります。
アサドの軍隊は女性戦士を見ると一斉に逃げ出します。後ろからクルド人
戦士は逃げていくアサド軍に攻撃を加えます。まるで劇画の世界です。

いずれにしてもEUはNATOの同盟軍であるトルコに対して不信感を強め
逆に「ロシアを敵視するトルコの策はISISをのさばらせるだけだ」とロシア
への好感度を強めています。

トルコはかって欧米の盟友でロシアは欧米の永遠の敵でした。しかし
テロ組織を一掃しようとしている敵国ロシアにフランスなどは親近感を
抱き始めています。

世界の世論づくりに長けている米国は、悪者はISISとロシアであるという
プロパガンダを流してきました。米国はアサド政権を壊滅させる為に
穏健派の反アサド勢力を支援してきました。

しかしロシアはアサド政権を擁護するために反アサドである「穏健派」や
「クルド人」「トルクメン人」と「ISIS」を攻撃してきました。

トルコはアサド政権を壊滅させる為に「トルクメン人」と「ISIS」に資金
や武器を援助してきました。

そしてフランスは、パリ同時多発テロで120人超が死亡 仏全土に非常
事態宣言以降、本気でISISを退治に踏み切ります。これ以降世界はISIS
への敵視を強めています。密かにISISを支援してきたトルコの悪だくみも
世界が知ることになりました。


話がだんだんややこしくなってきました。誰が敵で誰が味方か、それを
報道する日本のマスコミもわけがわからなくなっています。国際情勢は
常に変化しています。「昨日の友は今日の敵」も国際ルールの一つです。

何処の国も自国の利益と生存を賭けて必死になっています。その利益と
生存を脅かす者は、たとえ同盟国といえども攻撃します。この考えはロシ
アもEUもトルコも米国も同じです。

この当たり前の事が日本の評論家もマスコミも分かっていません。とくに
ナイーブな日本人には、白と黒の混じった灰色については理解不能です。

だから日本は、決してEUやトルコ、ロシアに対して善悪の判断をしてはい
けません。日本の敵はハッキリしています、中国と韓国です。



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