中国出張で縫製工場のある山東省の威海市に行くには、北京からローカル線に乗り換えて,煙台空港に降りて車で3時間かかる。
当時まだ大阪から青島までの直行便が無くて一旦北京空港まで行かなければならなかった。
それは12月半ばの寒い日だった。
威海工場での仕事を終え、翌朝9時発の北京行きに乗るためにはAM5時に出発しなければならない。
その日は小雨濃霧、煙台空港に着けば霧は晴れるだろうと予測していたが空港に着いても霧は晴れず北京行きの飛行機が一向に到着しない。
今回は一人旅、北京発大阪行きは明日のPM2時。予定では北京で一泊して帰る予定だったので少しぐらい飛行機が遅れても大丈夫だ。
見送りに着てくれた工場長が飛行機が遅れている事情を調べてくれた。
「霧のため、飛行機が着陸できず北京空港に引き返した。今日は飛ばない、そのまま煙台市に泊まり明日北京に行きましょう」
『しかし明日の午前中は北京事務所に寄ることになっている、車で行くと何時間かかるのか?』
中国語のしゃべれない私の代わりに工場長が空港で客待ちしていたタクシーに確認する。
「約12時間でいきます」という返事。
『料金はいくらですか』
「日本円で2万円でいきます」
『安い!それではお願いします』
すぐさま決断して荷物を車に積み込む。
工場長が一言ぼそり、「私の給料の二ヶ月分だ・・・」
聞こえなかったふりをして別れをつげ車に乗り込んだ。
車が北京に向かって走り出しほっと一息ついて安心していた私だったが思えばこれが地獄への旅の始まりだったのだ。
煙台−北京 地獄の旅 その1 プロローグ
煙台−北京 地獄の旅 その2
地獄への旅が幕を開けた前回のつづき
なんとかタクシーに乗り込み北京に向けて出発できた。しばらく走ってちょっと落ち着つく。時計を見ると現在9:30分、車の振動がやけに大きい。
よくみると内装はボロボロおまけにヒーターが壊れて動かない。雨はやまずいっこうに晴れない霧の中疾走する車の振動が一段と大きくなった。
パンクだ!!
しかし運転手は車を止めようとしない。ガタガタと激しく揺れる車を運転しながらあたりを見渡し何かを探している。
運転手はなにかを見つけたのか突然車道から降りてあぜ道を走りだし一軒の民家に横付けした。
民家の人に事情を説明しパンクの修理道具を借りる。
どうやらスペアタイヤは持っていなかったみたいだ。まわりに何も無かったらどうしてたんだろうとぼんやり考えているうちに修理が終わる。
車に乗り込み仕切りなおしに走り出す。車道に戻るためあぜ道を登るが雨でぬかるんでいたので登らない。空転するタイヤ、板をかますも効果なし。仕方無しに私と修理を手伝ってくれた民家の人と二人で車の後ろを押す。押す。押す。
それでも空回るタイヤから泥水シャワー。背広も顔もどろどろになりながらなんとか登りきった。
旅はまだ始まったばかり、北京ははるか遠く。ビジネスで来た中国でなんでこんな目に会うんだとへこんでいる私にさらなる悲劇が襲うとは想像も出来なかった。
なんとかタクシーに乗り込み北京に向けて出発できた。しばらく走ってちょっと落ち着つく。時計を見ると現在9:30分、車の振動がやけに大きい。
よくみると内装はボロボロおまけにヒーターが壊れて動かない。雨はやまずいっこうに晴れない霧の中疾走する車の振動が一段と大きくなった。
パンクだ!!
しかし運転手は車を止めようとしない。ガタガタと激しく揺れる車を運転しながらあたりを見渡し何かを探している。
運転手はなにかを見つけたのか突然車道から降りてあぜ道を走りだし一軒の民家に横付けした。
民家の人に事情を説明しパンクの修理道具を借りる。
どうやらスペアタイヤは持っていなかったみたいだ。まわりに何も無かったらどうしてたんだろうとぼんやり考えているうちに修理が終わる。
車に乗り込み仕切りなおしに走り出す。車道に戻るためあぜ道を登るが雨でぬかるんでいたので登らない。空転するタイヤ、板をかますも効果なし。仕方無しに私と修理を手伝ってくれた民家の人と二人で車の後ろを押す。押す。押す。
それでも空回るタイヤから泥水シャワー。背広も顔もどろどろになりながらなんとか登りきった。
旅はまだ始まったばかり、北京ははるか遠く。ビジネスで来た中国でなんでこんな目に会うんだとへこんでいる私にさらなる悲劇が襲うとは想像も出来なかった。
煙台−北京 地獄の旅 その3
パンクしたあげくぬかるみにはまって何とか脱出した前回のつづき
本道に出た車は北京に向かって走り出す。
まだ雨も止まず、町を通り過ぎ、人家の全く無い田舎道を走る。依然雨も止まず時計を見ればPM7時、周囲は真っ黒な闇、明かり一つ見えない。
車のライトを頼りにひたすら走っていると突然車にドンと衝撃、何かにぶつかったみたいだ。鹿か、猪か、左側のライトが壊れた。運転手は気にせず右側のライトだけでひたすら走る。
ライトに照らされるのは雑木ばかり、この道は本道からはずれているのではと思い運転手に確認するも言葉が通じない。運転手の不安そうな顔、道に迷ったに違いない。本道を捜すためにまた走る、しかし明かり一つ無い闇夜、これは朝が来るまで待ったほうがいいのではと運転手に説明するが理解しない。
すると突然ブレーキ、前につんのめる。何事だ?運転手を見ると青ざめている。
フロントガラスに広がる景色を見て理解する。
道がない!!
ライトに照らされたのは断崖絶壁、危機一髪。
さすがの運転手も朝まで待つことを理解。
時計を見ればAM4時過ぎ雨も止んでいる。北京までの旅はまだ終わりそうになかった。
本道に出た車は北京に向かって走り出す。
まだ雨も止まず、町を通り過ぎ、人家の全く無い田舎道を走る。依然雨も止まず時計を見ればPM7時、周囲は真っ黒な闇、明かり一つ見えない。
車のライトを頼りにひたすら走っていると突然車にドンと衝撃、何かにぶつかったみたいだ。鹿か、猪か、左側のライトが壊れた。運転手は気にせず右側のライトだけでひたすら走る。
ライトに照らされるのは雑木ばかり、この道は本道からはずれているのではと思い運転手に確認するも言葉が通じない。運転手の不安そうな顔、道に迷ったに違いない。本道を捜すためにまた走る、しかし明かり一つ無い闇夜、これは朝が来るまで待ったほうがいいのではと運転手に説明するが理解しない。
すると突然ブレーキ、前につんのめる。何事だ?運転手を見ると青ざめている。
フロントガラスに広がる景色を見て理解する。
道がない!!
ライトに照らされたのは断崖絶壁、危機一髪。
さすがの運転手も朝まで待つことを理解。
時計を見ればAM4時過ぎ雨も止んでいる。北京までの旅はまだ終わりそうになかった。
煙台−北京 地獄の旅 その4 あの老人は・・・
道に迷って林道を走っていると突然道が無くなって危機一髪だった前回の続き
少し緊張がやわらいだとたん猛烈な寒さを感じる。
このまま車の中で夜が明けるのを待たねばならない。トランクから下着とカッターシャツを取り出して着替えた。背広の代わりはない、泥だらけのまま寒くて震えが止まらない。
下着を2枚重ねて着ても暖かくはならなかった。少しでも体温を逃がさぬよう体を丸めひたすら朝を待つ。体は極限に疲れているが眠れるはずはなかった。
やっと周囲が徐々に明るくなってきた。しかしまたしても霧が発生、少し明るくなっても周囲が見えない。霧が晴れるまで身動きとれない。変わらぬ寒さの中もうろうとした頭で考える。今どの時点にいるんだろうか? 北京まであと何キロなんだ?
道に迷いながら闇夜の中を走るため20キロ前後のスピードで走ってきた。どう考えても半分くらいしか来ていない。
天津までいけば北京行きの高速道路があるのでなんとかなる、しかし霧はいっこうに晴れない。
運転手が小さく叫んだ、霧の向こうに小さな明かりが揺れている。止まっている車にだんだん近づいてくる。
助かった! 人がいる。明かりが我々の前で止まる。そこには白髪の長いあご髭、白いゆったりとした服、手にはカンテラを持った老人が立っていた。運転手が勢い込んで車から飛び出しその老人に喋りかける。
話がついたのか二人は車に戻ってきて、老人は助手席にゆっくり座った。どうやら道案内してくれるみたいだ。霧も少し晴れてきた。老人の指示に従って走り40分ぐらいで広い本道に出た。
老人が車から降りる、私も老人にお礼をするため急いでお金を取り出して車から出る。老人は霧で霞んだ雑木林の方にゆっくりと歩いていく。追っかけようとすると運転手が小便に行ったとジェスチャーで教える。
老人が帰ってくるのを30分ほど待っただろうか、しかし霧の向こうから老人が再び現れることはなかった。
これ以上待つことはできないと運転手に促されて、しかたがなしに北京に向けて走り出した。車の中にはその不思議な老人のお香のようなにおいがしばらく消えなかった。
少し緊張がやわらいだとたん猛烈な寒さを感じる。
このまま車の中で夜が明けるのを待たねばならない。トランクから下着とカッターシャツを取り出して着替えた。背広の代わりはない、泥だらけのまま寒くて震えが止まらない。
下着を2枚重ねて着ても暖かくはならなかった。少しでも体温を逃がさぬよう体を丸めひたすら朝を待つ。体は極限に疲れているが眠れるはずはなかった。
やっと周囲が徐々に明るくなってきた。しかしまたしても霧が発生、少し明るくなっても周囲が見えない。霧が晴れるまで身動きとれない。変わらぬ寒さの中もうろうとした頭で考える。今どの時点にいるんだろうか? 北京まであと何キロなんだ?
道に迷いながら闇夜の中を走るため20キロ前後のスピードで走ってきた。どう考えても半分くらいしか来ていない。
天津までいけば北京行きの高速道路があるのでなんとかなる、しかし霧はいっこうに晴れない。
運転手が小さく叫んだ、霧の向こうに小さな明かりが揺れている。止まっている車にだんだん近づいてくる。
助かった! 人がいる。明かりが我々の前で止まる。そこには白髪の長いあご髭、白いゆったりとした服、手にはカンテラを持った老人が立っていた。運転手が勢い込んで車から飛び出しその老人に喋りかける。
話がついたのか二人は車に戻ってきて、老人は助手席にゆっくり座った。どうやら道案内してくれるみたいだ。霧も少し晴れてきた。老人の指示に従って走り40分ぐらいで広い本道に出た。
老人が車から降りる、私も老人にお礼をするため急いでお金を取り出して車から出る。老人は霧で霞んだ雑木林の方にゆっくりと歩いていく。追っかけようとすると運転手が小便に行ったとジェスチャーで教える。
老人が帰ってくるのを30分ほど待っただろうか、しかし霧の向こうから老人が再び現れることはなかった。
これ以上待つことはできないと運転手に促されて、しかたがなしに北京に向けて走り出した。車の中にはその不思議な老人のお香のようなにおいがしばらく消えなかった。
煙台−北京 地獄の旅 その5 旅の終わり
不思議な老人に導かれ雑木林から脱出した前回の続き
老人に助けられ雑木林から脱出、車は本道を走ること数時間、何も無い景色からやっと町並みが見えだし天津市に入った。
午前中に北京事務所に寄る予定だったが時間的にもう無理だ。気力体力的にも無理なのは言うまでも無い。午後2時の帰りの飛行機にも間に合うかどうか。
車は高速に乗りおんぼろ車が100キロを超えて走る。小さく激しく小刻みに振動する。恐怖で緊張するもやっと北京に到着。
時刻は1時過ぎ、間に合った! 飲まず、食わず、眠らずの27時間、長かった旅もやっと終わりを迎える。
運転手にお礼を言って約束の2万円にプラス3万円を払う。生気を失っていた彼の顔が嬉しそうに笑顔、お互い命が助かってよかったですねと握手する。言葉が分からなくても同じ気持、強く握り反し別れを告げ空港の中へと急ぐ。
チエックインを終わり泥まみれの背広のまま飛行機のシートに倒れこむ。スチュワーデスが飲み物の種類を聞きに来る。消え入りそうな声でビールをオーダー。持って来た時には目を開けることさえしんどくて反応できない。スチュワーデスさんから優しい言葉をもらう。「ま〜ご苦労なさって」
熱いものがこみ上げてきた。
日本に無事帰国してあれから時が流れふと考える。
私を助けてくれた雑木林の白髪の老人はいったい何者だったのだろう。
彼に出会ってから中国でのビジネスが軌道に乗り出したのは偶然なのだろうか。
私は今でも彼は仙人だったに違いないと思っている。
あれから何度となく中国にいったがその不思議な老人に再び出会うことはなかったし,これからも出会うことはない。
なぜならもう二度と煙台から北京までタクシーで行かないから。
老人に助けられ雑木林から脱出、車は本道を走ること数時間、何も無い景色からやっと町並みが見えだし天津市に入った。
午前中に北京事務所に寄る予定だったが時間的にもう無理だ。気力体力的にも無理なのは言うまでも無い。午後2時の帰りの飛行機にも間に合うかどうか。
車は高速に乗りおんぼろ車が100キロを超えて走る。小さく激しく小刻みに振動する。恐怖で緊張するもやっと北京に到着。
時刻は1時過ぎ、間に合った! 飲まず、食わず、眠らずの27時間、長かった旅もやっと終わりを迎える。
運転手にお礼を言って約束の2万円にプラス3万円を払う。生気を失っていた彼の顔が嬉しそうに笑顔、お互い命が助かってよかったですねと握手する。言葉が分からなくても同じ気持、強く握り反し別れを告げ空港の中へと急ぐ。
チエックインを終わり泥まみれの背広のまま飛行機のシートに倒れこむ。スチュワーデスが飲み物の種類を聞きに来る。消え入りそうな声でビールをオーダー。持って来た時には目を開けることさえしんどくて反応できない。スチュワーデスさんから優しい言葉をもらう。「ま〜ご苦労なさって」
熱いものがこみ上げてきた。
日本に無事帰国してあれから時が流れふと考える。
私を助けてくれた雑木林の白髪の老人はいったい何者だったのだろう。
彼に出会ってから中国でのビジネスが軌道に乗り出したのは偶然なのだろうか。
私は今でも彼は仙人だったに違いないと思っている。
あれから何度となく中国にいったがその不思議な老人に再び出会うことはなかったし,これからも出会うことはない。
なぜならもう二度と煙台から北京までタクシーで行かないから。


