日本の保守派のTPP推進論者のほとんどは経済的利益を検討した
結果というよりも、地政学と安保戦略にもとづくものとして積極的
に賛成しています。
著名な保守派の論客たちも「TPP参加は日米同盟関係を深化させる。
これによって強大化する中国を牽制することができる」と言っていま
す。いわゆるTPPは「対中カード」として必要だといっているのです。
日本はあまりにも中国を恐れるあまりアメリカ陣営に一刻も早く滑り
込んで安心を買おとしています。そのために日本の国体まで揺るがす
毒には目をつぶるつもりです。
賛成論者の気持ちはよく理解できます。鳩・菅と続いた売国民主党政
権が国民を欺いて「日米離間」工作に動き、日米同盟の弱体化を目指
していたことに私も危機感を感じていました。
このようなストレスがたまっている状態の中で突然TPPが浮上して
きたのです。私も当初は中国の力が及ぶ「ASEAN+3」の中華経済圏
を阻止するためにはアメリカの力が必要だと思っていました。
中国の悪は単純でわかりやすい。しかしアメリカの悪は複雑で気がつく
まで時間がかかります。アメリカの経済外交の戦略プログラムは、その
政治的特質が各国の専門家にも気づかれないほど巧妙です。
そのアメリカの戦略を知るために最近の経済の歴史を少し振り返って
みます。
戦後のアメリカは共産主義に対抗するためにヨーロッパ諸国や日本が
経済力をつけることを望んでいました。そして望み通りヨーロッパも
日本経済も成長しました。
しかしアメリカは日本やヨーロッパの企業勢力を受け入れたことで、
自国の経済基盤が少しずつ弱体化し始めました。
アメリカの製造業は海外に移転し、その上日本の製造業には勝ち目は
無いと気付いたアメリカは金融部門でアメリカ産業帝国を築こうと
する野望が生まれました。
このあたりからアメリカは徐々に異なった様相を示し始めました。
アメリカは民主主義の普及にこと寄せて、資本を含めた貿易の自由化
を迫りました。アメリカの主張する完全な自由市場や、規制撤廃と
いうグローバリーゼーションというイデオロギーに対して、各国政府
や学者、マスコミは、それが世界利益であり、全人類の繁栄を実現
するのに役立っているとなぜか信じてしまった。
日本もグローバリゼーションの展開は、好適な輸出市場環境は絶対に
欠かすことのできないイデオロギーとして都合が良かった。
自由市場のおかげで日本の優れた資本材や部品は世界を席巻し、日本
のグローバル企業や中小企業の工場が世界中に進出しました。結果
日本は世界中に信じられないくらいの資産を持ってしまった。
日本の産業が世界の隅々まで製品を進出させるのに成功した要因は、
製品の特に優れた品質は言うまでもないが、アメリカが国際貿易に
とって快適な環境を作ってきたことにあります。
おそらく日本は世界の自由貿易の最大の受益者かもしれません。
日本は過去の経済歴史を振り返ったとき、日本はアメリカに大きく
依存しています。だから他のどんな要因よりも日米同盟関係の方が
優先されてしまいます。
それ故、経済界も保守派の識者もアメリカの要求を受け入れることが、
日本の生存には不可欠と思ってしまいがちです。
しかしよく考えてください。日本がアメリカに依存していると同じく
らいアメリカもまた日本に大きく依存しています。米国債を100兆円
近く買わされているだけでなく、日本が輸出で稼いだ巨額なドルが
アメリカの銀行にとどまっています。
日本が稼いだドルを円に両替すると円高に押し上げる圧力となります。
ということは大量にドルを抱え込んでいる日本企業が、ドルを日本に
持ち帰って円に交換できないことを意味します。その上企業が二重
課税のリスクを負う局面を避けるためにもアメリカの銀行にとどまら
ざるを得ないのです。(21年から外国子会社配当益金不算入制度導入)
アメリカにとどまる日本のドルの総額がどれほどなのか、誰も知ら
ない、だが、信じがたいほどの巨額であることは日本の政治家や
経済学者が知らないだけで、アメリカ当局は把握しています。
つまりアメリカ経済を支えているのは明らかに日本のマネーなのです。
日米関係は、多くの人々の想像をはるかに超えて両国は相互に深く
依存しています。
かと言って日本はなにも進んでTPPを受け入れてアメリカの経済植民
地になったり、日本文化を無理やり破壊する必要はありません。
我々はすでにアジア金融危機から現在のユーロ圏の金融危機でどれほど
多くの人々が規制を撤廃した自由市場によって辛酸を味わされるのを
見てきたはずです。
特にわれわれが学んだことは国際投資家の世界から保護された金融
システムを持っていることが、自国の経済の崩壊を回避するカギだと
いうことを学んだはずです。
今回のTPPは単なる自由貿易論ではありません。投資、食品、医薬品、
その他多くの安全基準、海外の弁護士や外国人労働者、皆保険、司法権、
立法権の侵害、公的文章の英語化など将来の日本の国柄に重大な影響
を及ぼすことは明らかです。
なぜ保守派の識者はこれらの危険を察知できないのですか?
TPP反対論者を「保護主義者」のレッテルを貼ったり「米国の陰謀説を
過剰に唱える人にうんざりする」など、余りにも能天気すぎます。
経済連の米倉会長が「もし参加表明しなければ、外交の孤立を招き、
国際的信頼を失う」など、何を根拠にそんな馬鹿げたことが言えるの
ですか?
財界も日本政府もアメリカに脅かされていますが、脅すネタは日本側
の方もたっぷりあります。
TPPによって日本社会がアメリカルールに染め上げられたら、社会や
環境に大混乱が生じ、大勢の人々が悲惨な境遇に陥ってしまいます。
どこの国の社会も、伝統、法的秩序、礼儀やその他の文化的要素に
よって社会秩序がなりたっているのです。
(今日もまたTPPについて書いてしまいました。新聞の社説や経済
学者のTPP賛成の論説を読むたびに血が逆流してつい書いてしまい
ます。TPPは国を売る暴挙であるとなぜわからないのか、胸が苦しく
なります)
